ひとりぼっちのはりおなごヽ(´ー`)ノ
ちょっと考えるところがありまして、溜まっている2話分をすっ飛ばして、先に今週の『鬼太郎』81話のインプレを行きたいと思います。
・・・べ、別に貝澤さんの演出回だから、先に書いたっていうワケじゃないんだからね!ww
鬼太郎・ネコ娘・ねずみ男は黒影村という山村へやって来た。その村の住人は、妖怪・針女によってみな影を奪われ、その影を通して毎夜激しい苦痛を味わっていた。だが、山にはまだ影を奪われず針女と戦い続けている元猟師の源五郎がおり、村長は鬼太郎たちに彼の手助けをして欲しいという。翌朝、山へと入った鬼太郎たちは、針女を捕らえるために源五郎が仕掛けた罠にかかってしまった。そこへ針女が出現しネコ娘が影を奪われる。鬼太郎も餌食になりそうになるが、間一髪で源五郎が助けに入った。鬼太郎は、影を奪われ苦しむネコ娘とともに源五郎にも山を下りるように進言するが、不敵にも彼はそれを断った。
てなカンジで♪ 81話は、5期『鬼太郎』では1クールに1度だけのスペシャル編みたいなノリも、なきにしもあらずな(笑)、貝澤演出回でございます。
しかも「影を奪われる」というシチュエーションともなれば、イヤがおうにも『ファンファンファーマシィー』エピソードNo.44「ひとりぼっちのかげぼうし」(貝澤演出回でもあります)を思い起こさずにはおれない次第。・・・もちろん、女の子向けのファンシーな作品と、男の子向けのホラー作品ですから、自ずとその方向性は180度違うのは当然なのですが、どちらも「影」を如何に印象づける形の演出を施すかに、ウエイトが置かれている点がポイント。
そして10年前の「ひとりぼっちのかげぼうし」とは、技術的にまた違ったアプローチがなされており、その観点でも興味の尽きないエピソードといえます。
貝澤さんの得意とする演出モチーフとして、よく雨が挙げられるのですが、実はこの影(影法師的なシルエット)を利用した演出の方が、よほど頻繁にまた効果的な形で多くの作品に使われています(5期『鬼太郎』でいえば、52話のクライマックスのバトルシーンでの、窓越しのシルエットで砂かけや子泣きらが夜道怪に瞬殺されてしまうのを見せるシークエンスが好例)。
それだけに、今回のように初手から影を題材にしたエピソードと来れば、おそらく貝澤さんとしては様々なアイデアを盛り込んだものと思われます。
シナリオ段階でどの程度まで描かれていたのかは不明ではありますが、例えば針女の触手の先が鏃のようになっていて、相手の影をペラリとひっぺがえすように奪い去る。あるいは影を貼り付けることで、鬼太郎自身は逆さ吊りにされているカットなどなど。また、影を奪われたあとは、足下から影の断片が切れ端のように揺らいでいたり、影を失ったネコ娘には、“彼女の体で物理的に暗くなっている部分がある”意匠として、ブレンド処理をした本来とは異なる影を落としてあったりと、枚挙にいとまがありません。
中でも特にインパクトが強いのは、影を使って相手を痛めつける描写!
針女は徹底的とも言えるほど、狙った相手の影を中心に攻撃を仕掛けてくるわけですが、その延長的に影を通して敵に激烈な苦痛を間接的に与えるという、相当にサディスティックな描写が強烈!
源五郎の影を捕らえて、両足、右腕と順々に影を引きちぎって行くシークエンスは、間接的である分、逆に凄まじくバイオレンスな雰囲気になっており、背筋が凍りつきそうなくらいにエグさ満点!
血しぶきや肉片というものを一切見せずに、ここまである種スプラッタテイストのある描写が出来るのか! とただただ驚嘆の一語です。
それと、もう一つ書いておかねばならないのが、冒頭の夕暮れ時に黒影村へ到着した鬼太郎たちのシーン。ここでの毒々しいまでの夕陽の色調が、とてつもなく不安感を煽るものになっています。この、文字通り逢魔が時を見せる禍々しい画面は特筆もの──貝澤さんは、黄昏を不気味に描くことが出来る数少ない日本のアニメ演出家の一人なのです──。ここで、長く伸びた鬼太郎たちの影というレイアウトも、非常に恣意的で巧みな感じですね。
作劇的にも多くのシーンでは、鬼太郎と源五郎の二人芝居となっており、貝澤さんが得意としている限られた登場人物によるミニマムな構成と、その分深く掘り下げられた感情芝居が連続します。
そうした中で、針女にいつ急襲されるかもしれない、まさに“殺るか殺られるか”のギリギリの緊迫感が常に画面上に張りつめており、見ている側も思わず肩に力が入ってしまう、凄まじいハードボイルドな仕上がりになっています。
これは、源五郎という不敵なキャラクター性に依るところも大きいかと思われます。殊に野宿をしているシーンで、左腕の影を失ったこと──この左腕の影が、対決の行方を握っている構成もナイスです──を鬼太郎に語るくだりで見せる、ある種の狂気を孕んだような、ギラギラした瞳の芝居などは、もう圧倒されまくり。
演ずる大塚明夫氏の渋すぎる演技もハマりまくり!
さらに、彼が使う武器が、針女の触手の先端を鋳溶かして造り上げた弾丸の一撃必殺のみというハンデを背負っているのも、さりげなくハードなサスペンス性に貢献しております(これは、『新必殺仕置人』の御代松の竹鉄砲に結構近いものを感じたり──弾を鋳造するカットなども、そんな匂いを感じさせます)。
さらに、クライマックスでの針女と源五郎・鬼太郎のバトルが、逆転また逆転という息もつかせぬ展開ともなっていて、それもお見事。
そんな源五郎は、鬼太郎の助けも借りて(というか、後半は相棒という感じにもなっている)針女の額についに弾丸をぶち込むことに成功するワケなのですが(針女が撃ち抜かれる瞬間は、画面で見せないところもミソ)、針女との戦いの勝利が、実は何も生み出さない虚しいもの──もちろん村人たちを苦痛から解放するというカタルシスはあるのですが──という苦く切ない余韻の付け方も抜群に良い!
今回、針女がここまで村人を痛めつけ、源五郎との対決に固執する理由は、敢えてきちんと語られていないのですが、この苦さや切なさが、事の発端がどちらにあったのかを物語るものでもあります。
今回のネコ娘は、ずっと半病人状態だったのであまり出番はなかったのですが、苦しみながらも鬼太郎を心配する様が、健気で、まさにヒロイン♪
・・・まぁネコ娘よりも、とにかく貝澤さんのハイクオリティ演出が存分に堪能出来て、個人的には大満足だったニャン♥
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
>針女の触手の先が鏃のようになっていて
コレは元々の針女の設定にあるものなので、そこから逆算して、強烈にインパクトのある描写にしたのでは、と推測。
バトル以外の要素を削れるだけ削った分、鬼太郎ですら一脇役に過ぎないという、今回は正に「源五郎と針女」の物語なんだ、というストイックさが良かったです。
もし藤原審爾の時代小説「大妖怪」がアニメ化されたとしたら、きっとこんな感じなのでは・・・
うっ、猛烈に見たい・・・
投稿: 宅川剛 | 2008年11月 5日 (水) 17時23分
宅川さん・・・
>>触手の先が鏃のようになっていて
>コレは元々の針女の設定にあるものなので、そこから逆算して、強烈にインパクトのある描写にしたのでは、と推測。
なるほど、なるほど・・・勉強になりますです。
>今回は正に「源五郎と針女」の物語なんだ
完成映像とアニメ誌に掲載されていた先行あらすじとでは、ストーリーのニュアンスが結構違う印象を受けるので(つか、あらすじだと鬼太郎も右半身の影を奪われることになってるし!)、いつものように(?)貝澤さんは、コンテの段階で割合と筋立てにも手を入れたのではないかと推察しておりますデスよヽ(´ー`)ノ
40話「大フィーバー!鬼太郎グッズ」のコスプレ合戦も、貝澤さんの完全なアドリブだったそうですから・・・
投稿: ぽろり春草 | 2008年11月 5日 (水) 18時46分